メニュー

映画「この世界の片隅に」公式サイト

レポート

こうの史代・おざわゆき:「はだしのゲンをたのしむ」 レポート

2016.05.06

みなさん、こんにちは。制作宣伝担当の宮村です。

4月16日(土)に明治大学駿河台キャンパスで開催された、『この世界の片隅に』の原作者・こうの史代先生と、『凍りの掌 シベリア抑留記』『あとかたの街』を手がけたマンガ家・おざわゆき先生のお二人が出演するトークイベント、【こうの史代・おざわゆき:「はだしのゲンをたのしむ」】に行ってきました!

今回は、このイベントのレポートをお届けします。

 

【画像1】

【おざわゆき先生(左)、こうの史代先生(中)、司会のヤマダトモコさん(右)】

このイベントは、現在開催中の「マンガと戦争展 6つの視点と3人の原画から+α」(会場:明治大学米沢嘉博記念図書館 6月5日(日)まで)の関連イベントとして行われたものです。会場となった教室には100名を超える参加者が集まりました。司会は米沢嘉博記念図書館スタッフのヤマダトモコさんです。

 

【画像2】

トークは、両先生が「マンガと戦争展 6つの視点と3人の原画から+α」をご覧になった感想と、印象に残っている戦争マンガについてのお話からスタートしました。

 

おざわ先生は印象に残っている作品として、手塚治虫の自伝的作品『紙の砦』を挙げます。大阪での戦争体験をベースにしたこの作品を中学生の頃に初めて読んだというおざわ先生は、歌劇団を目指していたものの空襲で火傷を負い、夢をあきらめたヒロインに向けた、主人公の明るい慰めが空しく響くラストシーンが強く印象に残ったそうです。他にも、「マンガと戦争展」で最後の「戦争マンガの山コーナー」に置かれていた、大友克洋の『気分はもう戦争』(矢作俊彦・原作)などの作品を挙げ、「幼い頃や若い頃に、意識せずに読んだり見たりした作品も、何かしら戦争に関わっている時代だったんだなと改めて感じました」と話されました。

 

こうの先生はマンガと戦争展について、「会場は広くはないですが内容は盛りだくさんで見るのに時間がかかりました。タイトルになっている6つの視点の分け方も目新しくて、こういう物が読みたいなと思った時の参考になりますね」と評価。印象に残っている作品として、手塚治虫の短編シリーズ『ザ・クレーター』の一篇、「墜落機」を挙げられました。無人島へ不時着し一年後に生還したにもかかわらず、軍によって“戦死した英雄”に祭り上げられていた主人公が、軍のメンツから再度出撃して死ぬように命令されるストーリーをよく覚えているとのこと。他にも、貝塚ひろしの『ゼロ戦行進曲』で、活躍していた主人公が最終話でいきなり特攻して終わるラストも衝撃だったそうです。

 

続いてヤマダさんがお二人に、お互いの作品についての感想を聞いていきます。

おざわ先生は、こうの先生の『夕凪の街』について「原爆症で亡くなってゆく人を、外側からではなく、本人の内からの目線で描かれています。今まで見たことのなかった表現が凄いです」とコメント。また、『この世界の片隅に』は、『あとかたの街』連載時に影響を受けそうだったので、読まないようにしていたそう。連載終盤に、こうの先生と対談することになり、その時に初めて読んだそうですが、「読んでいたら『この世界~』が基準になってしまい、『あとかたの街』での表現が変わっていたと思います」と話されました。

【画像3】

ここでは『この世界の片隅に』が様々な画材を使って描かれていることも話題になりました。最終話が鉛筆で描いた絵から丸ペンに変わり、ラストは絵具で彩色されていることについて話が及んだところで、こうの先生が「あれは編集さんに、何の断りもなくカラーで描いたんですよ。だから雑誌掲載時はモノクロだったんです」と衝撃の発言。会場の参加者全員から驚きの声が漏れていました。

 

こうの先生は、おざわ先生がお父様の体験談を元に描かれた作品『凍りの掌 シベリア抑留記』についての感想を語ります。「最初は寒そう、辛そうと読むのを躊躇したけど、シベリア抑留について知らなかったことが描かれていて、読み始めたら止まらなくなった」とこうの先生。「“戦争が終わったから終わり”じゃない、ということがよく分かる作品ですね」とお話しされていました。

 

『あとかたの街』については、「マンガで“お腹が空いている”という表現は難しいと思っていました。でも、1巻で主人公が鶏鍋を思い出すシーンがすごく美味しそうで、ほんとにお腹が空くんです。自分にはできない表現がまだまだあったんだなと思いました」とこうの先生。さらに、父母に対して子供が敬語で話す当時の家族像のリアルさや、男女や貧富の格差など、現代の読者が違和感を受けるような表現も含まれていることにも触れ、「男性向け・女性向けという掲載誌の差もありますが、私ができなかったことが描かれています」と語りました。

【画像4】

こうの先生は空襲のシーンにも言及。「主人公が防空壕に入っているシーンから、何の説明もなく他の防空壕の中に爆弾が落ちるシーンに切り替えることで、読者を驚かせるところが凄い」と感想を述べると、おざわ先生は「主人公はその場所に行っていないので、どうやって描こうかと悩んだのですが、その現場にいた人たちを出してしまうことにしました。このシーンはどうしても入れたかったので、表現も色々と考えたんです」と説明されました。

 

その後、話題は『はだしのゲン』に移ります。

『はだしのゲン』は、広島出身のマンガ家・中沢啓治が、自身の原爆被爆体験を元にした自伝的マンガです。戦中戦後の広島を舞台に、原爆で父・姉・弟を亡くしながらも、必死に生き抜こうとする主人公・中岡ゲンの姿を描いた作品で、実写映画やアニメーション映画、TVドラマ化もされました。扱っている題材が「原爆」であることから、様々な反応・評価を受ける作品ですが、「マンガ」として読むととても面白いと、こうの・おざわ両先生は話します。

「原爆投下後の表現も怖いけど、何度も読んでいると慣れるんです。それよりも戦時下の人間関係のほうが読むのが辛くなるほど怖いです。戦争による人間関係の不自由さがヒリヒリする感じで描かれています。ストレスがたまると、人間がむき出しになるんですよね」と、こうの先生。一方のおざわ先生は、「少年誌に連載されていたこともあって、全体的に明るくて、絵のタッチが軽い。だから読みやすいんです。悲惨な漫画として採り上げられることの多い作品ですが、この明るさがなかったら、ここまで印象に残らなかったと思います」と分析されました。

 

お二人は、「物事を素直に受け取り行動するゲンが巻き起こす騒動が、マンガとして面白い」という共通した意見を持っていました。「真っすぐな想いで行動するゲンは、ついやり過ぎる。トータルで考えると正しくないこともいっぱいする。でも、ゲンが魅力的だから、どんな失敗をするかすら楽しみになってくるんですよ」と、作品の面白さに迫りました。

 

おざわ先生は最後に、「『はだしのゲン』は、何度も読み返すほど面白いです。マンガとして成立し、成功した作品ですね」とコメント。こうの先生は「『はだしのゲン』は、自分のふるさとが描かれたマンガ。広島人として、広島の宝だと誇りに思います」と結んで、イベントは終了しました。

 

「マンガと戦争展 6つの視点と3人の原画から+α」は、明治大学米沢嘉博記念図書館で、6月5日(日)まで開催中。開館日は月・金・土・日・祝日です。

アクセスや時間などの詳細は、公式サイトをご確認下さい。

http://www.meiji.ac.jp/manga/yonezawa_lib/exh-war.html

 

レポートは以上です。

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

ページトップ 劇場情報