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映画「この世界の片隅に」公式サイト

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2025.08.10

細谷佳正さん・片渕須直監督が登壇!『この世界の片隅に』リバイバル上映【公開記念トークショーレポート】

8月7日に東京の109シネマズプレミアム新宿で、公開記念トークショーが実施され、すずの夫・北條周作役の声優を務めた細谷佳正さん、そして片渕須直監督が登壇しました。

 

2016年の劇場公開以来、改めてお二人が並んで観客の前に立つのは初めて。「まるで昨日のことのような感覚もありつつ、確かに時間が経ったことも実感します」――そう語るお二人のやりとりからは、作品への深い愛情と、“すずと周作”が時を超えて生き続けているかのような思いが伝わってきました。

細谷さんは冒頭、「広島の尾道出身なので、小学生の頃、平和学習で戦争映画を観た経験がありました」と自身の原点に触れつつ、「この作品がそうした平和教育の一助になるような映画になればと願って演じてきました。それが9年経って、終戦80年の節目にまたこうして劇場で観ていただけるとは、当時思い描いていた未来が実現したようで嬉しいです」と笑顔を見せました。

 

これに片渕監督も応じ、「戦争の時代がどんどん遠くなっていく中で、何とかその記憶をつなぎとめたいという想いをこの作品に込めました」と語りました。「呉や広島の町に当時どんな暮らしがあったのかを、できる限り忠実に描こうとしたんです。こうして映画が9年経っても“現役”でいられるのは本当にありがたいです」と、再上映への感慨を述べました。

アフレコ時のこだわりについても、貴重な裏話が。本作のアフレコが始まったのは2016年5月、最初にマイクの前に立ったのは、周作役の細谷佳正さんと、円太郎役の牛山茂さんでした。一方、すず役ののんさんが収録に臨んだのは約3ヶ月後の8月で、劇中で夫婦を演じたお二人のアフレコには実に3ヶ月の時間差があったことになります。


細谷さんは「アフレコをした頃は、ちょっと生意気な青年だったので…(笑)」と笑いつつ、「“人が自然とそこに存在しているような芝居がしたいです”という話をさせていただきました」と振り返りました。「当時はまだすずさん役が決まっていなかったのですが、きっと女優さんがされるんじゃないかと思っていて。女優さんの芝居はナチュラルで、声優の芝居は“ちょっと盛ってる”って思われたら嫌だなっていう、若いなりのプライドがあって。まだ会えないすずさんを想像しながら、“普通な会話のやり取りになれたら”という意識でやらせていただいてました」と真摯な表情で語りました。

 

片渕監督は「その細谷さんの“自然にそこにいる人”という芝居の基礎があったからこそ、他のキャストがその空気感を受け継げたと思います」と応じ、「細谷さんの声が全体のリアリティを支える大きな軸になりました」と感謝を述べました。

 

また、片渕監督は「ガンマイクを用いて、演者の“息遣い”を拾いながら収録した」と明かし、通常の声優収録とは異なり、マイクが見えない状況下で“まるでその場に存在するように”演じた細谷さんも、「信頼されていると感じました」「細かなニュアンスもすべて汲み取ってくれる環境だった」と当時を思い返していました。

 

また、印象的なシーンの話題になると、細谷さんが「年齢を重ねて気づくことがたくさんあり、9年前とは違う感情が湧き上がりました」と語り、改めて心を揺さぶられたのが、すずさんが終盤に周作さんに向けるあのセリフ――「ありがとう。この世界の片隅に、うちを見つけてくれて」だったと明かしました。

 

「聞いた瞬間、ちょっと涙が止まらなくなっちゃって……」と声を詰まらせた細谷さんは、「あの時代って、教育がガチガチだったと思いますし、女性が今のように人生を自由に選べる環境ではなかったと思うんです。言われるがままお嫁に行って、流されるがままに生きて、それで戦争でも傷ついて、大切なものをなくして。それがあった後にあのラストシーンを見ると、“何が正しくて、どう生きるべきか”っていう混乱があったと思うんですけど、その中で確信を得た言葉――周作に出会えて、あの言葉を言うっていうのは、本当に尊いなと感じます」と話しました。


片渕監督も「すずさんはそこで初めて、自分が住む場所と、これから歩んでいく道を見つけたという感じですよね」と静かに頷きました。
「今もちょっとうるっときてるんですけど、思い出すとやばいですね」と語る細谷さんの姿からは、時を経てなお作品に寄り添い続ける誠実な想いがにじんでいました。

終盤には、観客の笑いを誘う“もしも”の話も展開されました。

公開から9年――もし作中でもすずさんと周作さんが同じ年月をともに過ごしていたとしたら?という話題に触れた細谷さんは、先日の舞台挨拶で、のんさんがすずさんになりきって語った言葉を引き合いに出しながら、「すずさんとは夫婦なので、子どもが16歳になって“物を言うようになった”っていうのは、当然本当ですね」と笑いを交えながら回答。

片渕監督は「たぶん周作さんはすずさんの尻に敷かれているんじゃないかな」と語り、会場は和やかな笑いに包まれました。

 

最後に、細谷さんは「情報過多な今、新しいものがどんどん生まれていく中で、この映画は“消費されるもの”というより、“心に残る作品”という印象が強くて。そういうものに関われて本当に光栄だなと思っています。多くの方に劇場で観てほしい作品です」と力強く語りました。

片渕監督も、「“そこに本当に人が生きている”と感じられるような世界をつくりたいと思って制作しました。呉や広島の街に立つすずさんや周作さんの息遣いや、ご飯の炊ける音、飛行機の飛ぶ音――そんな日常のすべてが重なり合って、ひとつの“世界”になっていく。それを、細谷さんをはじめとする多くの方々の力によって実現できたと感じています。9年経ってもなお、映画館で観てほしい作品だと心から思っています。何十年先にもこの作品を観ていただけたら、それは僕らにとって何よりの喜びです。すずさんと周作さんも、きっとその世界の中で、これからもずっと仲良く暮らし続けているはずです」と締めくくりました。

 

この日語られた一つ一つの言葉は、すずさんと周作さん、そしてこの作品が「今も生きている」ことを、何よりも雄弁に物語っていました。

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