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映画「この世界の片隅に」公式サイト

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2025.09.01

潘めぐみさん・片渕須直監督が登壇!『この世界の片隅に』リバイバル上映【ファイナルトークショー レポート】

涙と拍手に包まれた夜

──潘めぐみ×片渕須直、終戦80年に語る『この世界の片隅に』ファイナルトークショー

 

テアトル新宿で行われた『この世界の片隅に』ファイナル上映のトークイベントに、浦野すみ役の潘めぐみさん、監督・脚本の片渕須直監督が登壇しました。2016年の公開から9年。“終戦80年・すずさん100歳”という節目に迎えたこの夜は、作品と観客が深く呼応し合う特別な時間となりました。司会は制作宣伝の山本和宏さん。

 

上映が終わり、潘さんと片渕監督が姿を見せると、会場は大きな拍手に包まれました。
潘さんは「皆さん、お久しぶりです。そしてはじめまして。浦野すみ役の潘めぐみです。本日はよろしくお願いいたします」と挨拶。片渕監督も「今夜もこんなにたくさんの方に集まっていただき、本当にありがとうございます」と笑顔を見せました。

 

 

トークは9年前の公開から今日までの歩み、そして“これから”に向けた想いへと広がりました。
潘さんは「10年後も、この先もずっと、すずちゃんに会えたらいいなと、当時の舞台挨拶でも話していましたが、もう9年になるんですね。こうして再会できて本当にありがたいです」と胸の内を語り、片渕監督は「映画館を巡るたびに“自分ひとりではない”と確かめられた。ずっとその道のりを歩んでこれたことに感謝しています」と言葉を重ねました。

 

 

客席には「今日が初めての鑑賞」という観客がおよそ30名、「10回以上観ている」というリピーターも多数。若い世代が手を挙げる姿に、潘さんは「伝えていくことの大切さを実感している今、この作品と出会っていただけるのは本当に意味のあること」と噛みしめるように話しました。

 

司会から「すみちゃんは、唯一“すずちゃん”と呼ぶ唯一無二の存在でした。すずさんとの印象的なシーンは?」と問われると、潘さんは「布団の上で姉妹が秘密を打ち明け合う場面が特に心に残っています。すみちゃんの小さな恋心と、すずちゃんの頭をのぞき見てしまったような、姉妹ならではの距離感を感じました。そしてラストで『うち、こんなよ…治るかね』と語る場面。あれは弱音ではなく、すずちゃんにだからこそ見せられた本音。すずちゃんが返してくれる言葉があれば、私はいくらでも生きられるという想いを込めて伝えました」と答えました。

 

片渕監督も「悲劇を描くことを避け、観る人に委ねる余白を残したいと原作のこうの史代さんもおっしゃっていて。すみちゃんが取り乱さず、あくまで日常の延長として語ることに意味がある」と補足しました。

 

 

潘さんはアフレコ当時を振り返り「広島弁に苦戦しましたが、サンさん役の新谷真弓さんから方言指導を受けながら“すずちゃんと本当に会話している”と感じられました」と回想。片渕監督は「実は声優陣は全員バラバラに録音していたのです。のんちゃんのすずさんを最後に収録したとき、まるで最初から掛け合いをしていたかのように声が自然に重なった。託す側と受け取る側、その往復で一本の音になった」と語り、会場からは感嘆の声があがりました。

 

さらに「もし物語の時間が現実と同じように進んでいたら、すずさんのひとつ下のすみちゃんは今年28歳。潘さんが声をかけるとしたら?」との問いに、潘さんは「きっとあの時の将校さんと再会して、仲睦まじく元気でいてほしいです。持ち直す前は、箸を近くに持っていたすみちゃん。きっとあの将校さんも近くに住んでいるんじゃないかな。幸せに暮らしているといいなと想像を巡らせています」と柔らかい笑顔を浮かべました。

 

 

終盤には観客全員で「すみちゃん、おかえりなさい!」と声を合わせる記念撮影が行われ、会場は温かな空気に包まれました。潘さんは最後の挨拶で「今日、この『おかえりなさい』が本当に胸に響きました。もう一度言おうかな…」と涙声でつぶやき、会場に向かって「ただいま!」と叫びました。その瞬間、堰を切ったように涙があふれ、言葉を続けられないほどに。観客席からもすすり泣きが広がり、会場全体がひとつの感情に揺れました。

 

涙を拭いながら潘さんは「百年後の世界がどうなっているか分かりませんが、この映画はきっと在り続けているはずです。この普遍的な想いが込められた物語を、どうか次の世代へ託して、伝えていただけたら嬉しい。観てくださる方がいる限り、すみちゃんもスクリーンのなかで笑顔で生き続けると思います」と言葉を結びました。

 

 

片渕監督は最後に、すみちゃんがエリザベス女王やマリリン・モンローと同い年であることに触れ、「すみちゃんたちの世代は、これから人生が花開いていく世代なんだと改めて感じました。人の人生があり、時の流れがあり、それはずっと続いていく。おそらく今も続いているでしょう。僕らがいなくなっても映画は映り続け、皆さんもその流れの中にいる。そう思えることが一番ありがたく、嬉しい」と言葉を結びました。

 

そして最後に司会の山本さんが声を震わせながら「お二人の言葉にあった通り、戦争を知る人がいなくなっても、この作品があれば想いは生き続ける。命には限りがありますが、作品は皆さんの心の中で生き続けます」と涙ながらに語りかけると、客席からは割れんばかりの拍手が沸き起こりました。

 

涙と拍手が交錯するなか、終戦80年上映『この世界の片隅に』ファイナル舞台挨拶は幕を閉じました。9年の時を経てもなお、この作品は観客と共に生き続け、未来へと託されていきます。

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