2018.06.15
【第21回 文化庁メディア芸術祭】贈呈式 片渕須直監督の受賞コメントを紹介します!
6月12日、国立新美術館で【第21回 文化庁メディア芸術祭】贈呈式が行われました。
【文化庁メディア芸術祭】は、〈アート〉、〈エンターテインメント〉、〈アニメーション〉、〈マンガ〉の4部門において優れた作品を顕彰するとともに、受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバル。 2016年9月10 日~2017年10月5日までの間に完成または、すでに完成してこの期間内に公開された作品の募集を行い、高い芸術性と創造性を基準として、部門ごとに大賞、優秀賞、新人賞を選定するもの。
今回の〈アニメーション部門〉では、『この世界の片隅に』と『夜明け告げるルーのうた』の2作品が、大賞をW受賞しました。
贈呈式には片渕須直監督が出席し、アニメーション部門の受賞者を代表して、スピーチを行いました。
「今回の受賞を、本当にありがたく感じています。
『この世界の片隅に』という作品の原作は、こうの史代さんが描かれた同名のマンガです。こうのさんはこのマンガで、メディア芸術祭の優秀賞を受賞しました。
今回、同じ題名の映画が大賞ということで、こうのさんに報告できたのですが、こうのさんはそのことをすごく喜んでくださいました。
七十数年前の人々の暮らしや街の営みの姿を描いた作品が、世の中の先進的なメディア芸術に対して与えられる賞をいただくことができたのは、本当に意義深いことだと思っています。そうした観点で、賞を定めてくださった審査の方々に敬意を感じます。
そして、応援してくださった皆様に、感謝を捧げたいと思います。
何よりも、今この瞬間にも我々のスタッフは、新しいカットを描き続けているわけなのですが、彼らともこの賞を分かち合いたと思います。
今日は、どうもありがとうございました」
片渕監督は、同日に行われた受賞作品展の内覧会にも出席。
『この世界の片隅に』コーナーの展示について、自ら解説しました。
《年代別人物スケッチ》
「こちらの展示は、映画を作るにあたって、どんな風に自分たちが考えてきたかがわかるような物です。
ここにあるのは、2011年くらいに我々で作った映画の中の時代の人々のスケッチです。
戦争中と言っても、何年何月で人の装いは違うし、考えている事も思っている事も違います。そういうものが戦争前、戦争中、戦争末期にかけて移ろいでゆく様、時代の流れそのものを映像にしていけるだろうかというアプローチをしてみたものです」
《北條家と家族の生活》
「映画の中では、18歳の主婦・すずさんの生活が描かれています。その生活のディテールはどうだったのだろう? どんな家に住んでいて、その家には何があったんだろう? ということを考えました。これは、それをイメージしてスケッチしたものです。
こうの史代先生のマンガにも、すずさんが日常的に家事を営む姿がたくさん描かれています。ですが我々は、それ以外の日々はどんな家事をしていたんだろな?という疑義をすべて埋めて、すずさんという人を場面場面ではなく、ひと繋がりの立体的な人物として捉えようとしたのです。
すずさんが毎日どんな生活をしていたかというタイムスケジュールも、当時の主婦の生活スケジュールを調べたものを元に作りました」
《中島本町 大津屋モスリン堂 作画の変遷》
「それから、彼女が訪れる1軒のお店。これは広島に実在し、原爆で無くなってしまったお店なのですが写真が残ってないんです。それでも何とかしたいと思って描いた過程もあります。
最終的には、映画を観たお店のお孫さんが訪ねて来てくださって、まだ残っていたというお店の包み紙を1枚戴くことができたんです。
この作品は、そういうところまで繋がっています。
我々は街をただ描いたのではなく、“そこにあった街”を描きました。そして、その街に関わっていた人、繋がりのある人がこの作品を観て、いろんな想いを抱いてくださったわけです。
そんなふうに、たくさんの広島市や呉市の風景なども、同じように描いています。
この展示を見ていただいて、映画をご覧になって感じていただいた世界を、ここで新しくふくらませていただけるのではないかと思います。
そういうところにも、期待して来ていただけると嬉しいです」
【第21回 文化庁メディア芸術祭 受賞作品展】は、六本木の国立新美術館で、6月24日(日)まで開催中です。
詳細は、受賞作品展公式サイトをご覧下さい。
http://festival.j-mediaarts.jp/